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発行日 2017年6月15日
発行者 対人援助学会
編集長 団 士郎
【編集長から】
私達の暮らすこの世界が、問題を抱えないことはない。四六時中、様々なテーマが要・解決課題として、生活の前に立ちはだかる。
当事者はその時が初めての経験、素人であることが大半だろう。だから専門家、スタッフにその対応を委ねることになる。
ここにあらゆる領域での対人援助サービスを担う者が登場する。
しかし個人には初めてかもしれないが、社会は既に何度も経験済みのことである場合が多い。日本人として初めての出来事に遭遇することや、人類として未だかつてない事態に直面するなんて事は先ずない。だから多くの問題は専門家の手でスムーズに解決されてゆくはずである。ところが現実はそうではない。
今号に掲載の中村周平「ノーサイド」を読むと、学校スポーツ事故の対応において、日本社会が採用している仕組みが、いかに空しいエネルギーを当事者に強いているかがよく分かる。
どのような問題だろうと、解決について検討され、試行錯誤の中で、経験の蓄積から進化を遂げていくものなのだ。ところが、それを受け入れない力が存在する。
誰なのか、何故なのか、よく分からないが、こうすればより合理的だと実証されているのに、それを採用しない。そして、相も変わらず、当事者同士の苦しい紛争解決事態として、傷つき合いながら時を過ごす。
本人や家族の人生が、一つの事故とそれを巡る解決の道筋によって、何もかも吸い取られてしまう。そんなバカな話があるだろうかと思うが、現実はそうなのである。
私達は問題に苦しんでいると思いがちだが、それは正しくない。誤った問題解決の道筋に苦しんでいる。
対人援助学マガジンでは、様々な分野の最前線で今、どんな課題が、どのように取り組まれ、そこではどんな進歩が成し遂げられているのかを、情報提供と共に、考え方も提示できたらと考えている。
同じく今号の、荒木晃子「卵子提供の“いま」も、まさに我々の時代が直面する、最先端技術と人間の欲望の話だ。そしてこれは当然、様々な切り口からの他の連載原稿の中にも読み取れる今日の日本社会のテーマである。
ここをこんなに熱く、厚く語っている雑誌は希なのではないかと思う。業界サロンや同好の士の集いの会話のような文章を集めた業界誌が現状を切り拓くことはないだろう。
無料定期刊行を崩すことなく、小さいながら世界発信(日本語である限界は呑み込んで)しているWebマガジンの誇りは高い。